技術用語集 熱処理 焼きならし
焼きならし(Normalizing)は、鋼材の組織を均一化し、機械的性質を改善するための熱処理です。
焼なましと似ていますが、冷却方法や目的が少し異なります。
- 加熱温度:鋼材の変態点(A3点)以上、一般的に850〜950℃程度
- 冷却方法:空冷(自然冷却)で、焼なましよりも冷却速度が速く、硬さが高くなる傾向
焼きならしは、焼なましよりも硬く、焼入れよりも靭性があるという中間的な性質を持つため、加工性と強度のバランスが求められる部品に非常に適しており、構造用鋼、炭素鋼、合金鋼などの機械部品や建築部材に多く適応されます。
焼入れ前の前処理としても利用されることもあります。
焼きならしの主な目的
- 鋳造・鍛造後の不均一な組織の均一化
- 加工性・靭性・強度のバランス改善
- 冷間加工や溶接による残留応力の除去
S53C 焼きならしの事例
S53Cは機械構造用炭素鋼の中でも炭素量が高め(約0.53%)で、高強度・高硬度が求められる部品に使われます。
焼きならしはその性質を安定化させるために重要な前処理です。以下に、S53Cの焼きならしに関する代表的な事例と条件を紹介します。
■S53C丸棒の焼きならし処理条件
- 素材: S53C φ50mm丸棒
- 処理条件: 850℃に加熱 → 1時間保持 → 空冷
- 結果:
―組織がフェライト+パーライトに均一化
―機械加工時の切削性が向上
―焼入れ前の準備として、硬さと応力のバランスが取れた状態に - 表面硬度:200HB前後(測定位置により変動)
■注意点:
- S53Cは焼割れや熱処理ひずみのリスクが高いため、急冷や不均一な加熱は避けるべき
- 焼きならし後に焼き入れ・焼き戻しを行うことで、さらに高強度な部品に仕上げることが可能
- 大径材では、中心部と表面で冷却速度が異なるため、硬度や組織に差が出ることがある