技術用語集 熱処理 サブゼロ処理
サブゼロ処理(Sub-Zero Treatment)は、焼き入れ後の鋼材を0℃以下の極低温に冷却することで、残留オーステナイトをマルテンサイトに変態させ、組織を安定化させる熱処理です。
寸法安定性や硬度の均一化、耐摩耗性の向上を目的として、工具鋼や精密部品などに広く用いられています。
サブゼロ処理の定義と目的
- 定義:焼き入れ後の鋼材を0℃以下(通常は−60℃〜−100℃)に冷却する処理
- 主な目的:残留オーステナイトの除去、硬度向上、寸法安定性、耐摩耗性の向上
- 冷却手段:ドライアイス(−78℃)、液化炭酸ガス(−130℃)、液体窒素(−196℃)など
- 適用対象:高炭素鋼、工具鋼(SKD11など)、金型、精密部品、刃物類
サブゼロ処理の効果
- 残留オーステナイトの変態促進:常温では変態しきれないオーステナイトをマルテンサイト化し、組織を安定化
- 硬度の向上:マルテンサイトの増加により、全体の硬度が上昇
- 寸法の安定化:経年変化による寸法変化を防止
- 耐摩耗性の向上:均一な硬度分布により、摩耗に強くなる
- 工具寿命の延長:特に高精度・高負荷の使用環境で有効
サブゼロ処理の工程フロー
1.焼き入れ(Quenching)
- 鋼材をオーステナイト化温度(約800〜1050℃)まで加熱
- 急冷(油冷・ガス冷など)によりマルテンサイト化
- この時点では残留オーステナイトが20〜30%程度残ることがある
2.湯戻し(必要に応じて)
- 約100℃前後で短時間加熱し、急激な冷却による割れ(サブゼロクラック)を防止
- 特に高炭素鋼や複雑形状の部品では重要な工程
3.サブゼロ処理(Sub-Zero Treatment)
- 焼き入れ直後に−60℃〜−100℃程度まで冷却
- 冷却媒体:ドライアイス+アルコール(−78℃)、液化炭酸ガス(−130℃)、液体窒素(−196℃)
- 処理時間:数時間〜24時間(材質・目的による)
- 残留オーステナイトがマルテンサイトに変態
4.焼き戻し(Tempering)
- サブゼロ処理後、500〜650℃程度で焼き戻し
- 応力除去と靭性向上のために1〜2回行うことが多い
- 高温ダブルテンパーと組み合わせることもある
注意点と補足
- サブゼロ処理は焼き戻し前に行うのが原則。焼き戻し後では残留オーステナイトが安定化し、効果が薄れる
- 処理後は焼き戻しによる応力除去が必要
- 極低温処理(−150℃以下)は「超サブゼロ処理」と呼ばれ、さらに高い効果が期待されるが、設備やコスト面で制約あります。